鉛やカドミウムなどの重金属は,生物にとって有害な元素です。もちろん植物にとっても有害です。
重金属が多く含まれる土地では,植物の成長が大きく妨げられるか,もしくは生えることすらでき
ません。しかし,広い世の中には変わった植物もいるものです。むしろ重金属がたくさんある場所
に好んで生えている植物もいます。しかも,その体内には高濃度の重金属が蓄積しているというか
ら驚きです。ヘビノネゴザは,そのような植物のひとつで,北海道から九州まで日本各地に分布し
ています。
ヘビノネゴザのこの変わった性質が最初に記載されたのは,今から111年前のことです。三宅驥一
氏による「へびのねござト鉱質トノ関係」植物学雑誌11巻(明治30年)というレポートによると,
生野銀山の冶金所周辺に堆く積み上げられた鉱糞(鉱石の廃砕)の上に,ヘビノネゴザが生い茂っ
ていたとの記述があります。鉱糞には,多量の重金属が含まれていたと思われますが,「生い茂っ
ていた」という表現は,決して誇張されたものではなかったと思います。実際私も,高濃度の鉛で
汚染された金沢城の石垣にヘビノネゴザが群生しているのを見たことがあります(写真2)。
また,三宅氏のレポートによると,このようなヘビノネゴザの特異な性質は,当時の坑夫たちにも
よく知られていたようで「銀山ノ鉱石ノ出ル個所ニハ必ズ生スレバ坑夫ハ此草ノ生ズル所ニハ鉱石
在リト信シ居ル」との記述があります。鉱床の指標植物として利用されていたそうです。なお,誤
解のないように書きますが,ヘビノネゴザは決して高濃度の重金属を生育に必要とするわけではあ
りません。重金属毒性を緩和する優れた機構を備えているため,他の植物が入り込めないような場
所で悠々と繁茂しているだけです。逆に条件の良い場所では,他の植物との競争に負けてしまうの
でしょう。いわばヘビノネゴザは,オンリーワンの生き方を選択したといえます。植物の生存競争
は,我々が想像する以上に厳しいのです。
では,ヘビノネゴザの重金属毒性を緩和する機構とは,どのようなものなのでしょうか。我々の研
究室では,この謎の解明に取り組んでいます。そして今,ほんのちょっとの手懸かりをつかんでい
ます。それは,ポリフェノールです。ヘビノネゴザには,プロアントシアニジンと呼ばれるポリフ
ェノールが非常に高い濃度で含まれています(図)。プロアントシアニジンは,一般に重金属を結
合する性質を持っていますが,これがヘビノネゴザの特異な性質と本当に関係するのかどうかはま
だ分かっていません。この難問に皆さんも挑戦してみませんか。
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(生物圏環境科学科 蒲池 浩之)
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