Submarine Groundwater Discharge(SGD)は日本語に訳すと「海底地下水湧出」,略して「海底湧水」という。私とSGDとの出会いは12年前,"海仲間"の一言"富山湾の海底に淡水が湧き出ているよ!"であった。
今年,連休を利用して我々は台湾へ行ってきた。ターゲットは,台湾東北部宜蘭県の東方沖にある亀山島。「台湾走透透,亀山走不到」(台湾の隅々を訪ねても亀山には届かぬ),神秘に満ちていた亀山島は,長年軍事下に置かれ(経常管制区),2000年8月1日に漸く一般公開された。期間は夏季の3月から10月,午前9時から午後4時で,毎日の登島人数は150名以下,さらに15日前までの申請が必要など制限が多く,観光スポットの中でも特に人気が高い。 |
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亀山島の全貌 |
亀首の正面にある断崖 |
断崖に点在している噴気孔 |
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亀山島のテクトニクスは沖縄トラフ南西端と琉球島弧の交点に位置する活火山の一つで,島東方の50〜100km,水深1300〜2000mの海域に70ヶ所もある海底火山の中で,唯一海面まで顔を出しており,呼吸している亀に似ていることから名付けられた。亀首の絶壁に多数の噴気孔が点在し,水深10〜20mの海底噴出口(30ヶ所以上)では水蒸気・硫化水素などの火山ガスが一気に噴出し,周辺の海水面より20cm近くも盛り上がっている。大きいVENTからは温度116℃,pH1.5の湧水が,158ton/hrの勢いで噴出しているという最近の報文もある。 |
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海底噴気孔付近の海面が
高く盛り上がっている |
いざ,潜水開始 |
海底噴気孔より採取された
硫黄系試料 |
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4月29日,波高1.5mの中,台湾国立中山大学海洋地球化学研究所のグループと我々一行を乗せた漁船「合發十六号」が出港し,ばたばたと準備しているうちに,もう目的海域に到着した。現地の潜水調査会社のプロダイバーが次々と格好良く着水し,私はドキドキしながらも平然の顔を装い後を追った。しばらくすると海底が見えてきて,奇妙な風景が眼前に広がった。バラバラに分散し作業している全員が蟹のように横這っている!突然,"チン…トン"という音とともに,ものすごい勢いで体が岩場に投げつけられた。背負っていたボンベの衝突音だ。しばらくの間耳鳴りがやまず,顔面は「熱い」と「冷たい」底層流に交互攻撃され,マスクもすぐに曇った。気がつくと海底から立ち上っている高さ数mのチムニーや鋭い岩に囲まれ,膝や肘が岩の隙間にうまくハマって,自分も"蟹"になった。試料採取を無事に終えて海面に戻った後,大男4人に両手両足を掴まれ漸く間に船に"回収"された。日本国内なら,波高1.5m以上もある外洋での潜水作業はあり得ない。ましてや,数十分間も海底で"苦戦"した後なので疲れ果てていたのだ。
疲労困憊のダイブであったが,平成21年"昭和の日"は,私のダイビング歴において輝かしい記録となった。 |
亀山島にて安山岩の隙間から
湧水を採取する |
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(生物圏環境科学科 張 勁) |