放散虫化石は、その大きさが0.1〜0.5mm前後と、顕微鏡で観察してやっと形が分かる程度の、
小さなプランクトン化石です。あまり聞きなれないなと感じるかもしれませんが、
1800年代中頃には既に、主にヨーロッパで立派な研究対象となっていました。一方、日本での
放散虫化石の一大ブームは1970年代頃から始まり、プレートテクトニクスや付加体といった新
しい概念の導入とともに、日本列島の骨格をなす地層の歴史(地史)は、放散虫化石により大
きく書き換えられました。放散虫化石は現在、日本列島をはじめとして、ロシア、中国、フィ
リッピン、タイなどの東アジア各地で、地層が堆積した時代や古環境を解明するツールとして、
休む暇も無く大活躍しています。
図2:ハンガイ−ヘンテイ帯(図の黄色部分)の位置を示すモンゴルの地帯
(地層)区分図。モンゴルから初めての放散虫化石は、ハンガイ−ヘンテイ帯に分布するゴル
ヒ層という地層から得られました。Uは首都ウランバートルです。
最近、放散虫化石の東アジアにおける活躍の場に、モンゴルが新たに付け加えられました。
モンゴルは、北はロシアに、南は中国にはさまれた、東西に約2,300kmで南北に約1,200kmもの
広い国土を持ちます。また、標高は1,000m以上の地域が大半を占めます。2003年秋に始まった
日本−モンゴル共同研究では、モンゴル中央部に位置するハンガイ−ヘンテイ帯(図2)を対象
に、深海底に堆積したチャートと呼ばれる岩石から、放散虫化石の抽出を試みました。そして、
モンゴルから初産出の放散虫化石の時代は、その形態から約4億年前の古生代デボン紀であるこ
とが分かりました(図3)。東アジア大陸は、かつて幾つかの大陸に分かれていたものが、中生
代に衝突して結合し、現在みられるような一つの大陸になったことが知られています。デボン
紀を示す放散虫化石は、モンゴル中央部に広がる標高1,500m前後の大草原が、約4億年前には水
深数千mに達する大洋底であったことを、初めて具体的に示しました。モンゴルの地史は、放散
虫化石により大きく書き換えられつつあります。
富山大学理学部地球科学科では、顕微鏡でしか観察できないけれど、地球の地史を解明する上
で見逃せない放散虫化石を、日本列島のみならず東アジア全域を視野に入れて、調査研究を
展開中です(図4)。
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図3:モンゴルから初めて報告されたデボン紀を示
す放散虫化石。2004年の報告の後、我々のグループは広域的に地質調査を行い多くの地点から
放散虫化石を得ています。
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